2012年6月5日火曜日

牧師のひとり言 No2

初老牧師:友川 栄

「勇気を出しなさい!」

 「世ではなやみがある。しかし勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝っている」(新約聖書:ヨハネ16章33節)と語ったイエス・キリストの勧めに、慰めを得た人が数知れないと思う。私もその一人です。また、この言葉は悩みや苦しみと無縁な状態で発せられた言葉ではないことを忘れてはいけません。

イエスが十字架に架けられる少し前に弟子たちに語った言葉です。慰めや励ましを与えるのは修羅場を潜ってきた人でないと伝わらないのではないでしょうか。理路整然と語っても思いが通じないことが意外と多いもの。同じような体験をしないと伝わらない。他者が抱えている課題や問題を「そのまま」受け容れる温かさです。限りなく不可能に近い。

この言葉を聞いた弟子たちはイエスの真意を魂の底から理解したかといえば「NO」といえましょう。真意を理解したのは、弟子たちがイエスを捨てて逃げ自分の不甲斐なさに絶望をしたときです。イエス・キリスが復活され、弱い弟子たちに現われ、真の愛に触れたとき初めて分ったのではないでしょうか。神や他者のために働く中で、イエス・キリストの言葉の重みを感じるようになったと思う。

当時、キリストの教えを多く方々が喜んで受け容れたかといえば、そうではありません。今と変わりありません。教えは素晴らしいのですが、犠牲が伴う。自己犠牲を余儀なくせざるをえない。ある時は、自分の時間を他者のために削らざるをえません。見返りを求めない奉仕。親切の押し売りも空振りに。人の思いを汲んで寄り添う以外にない。黙って聞くことが求められる。これが難しい。疲労困憊し、心が折れることも。

人生は喜びばかりではありません。子育ても「然り」ですね。親を介護するにも、幾度涙することでしょうか。仕事も同じ。馬の合う人ばかりではありませんよねぇ。「いら、いら」「ぷり、ぷり」どうにもならない感情を制御できずに、自分が情けなることがしばしばでは? しかし感情を過剰に押さえ込むことも精神衛生上良くないことを知っています? 怒っても、泣いても、愚痴をこぼし、助けを求めてもいい! 独りで頑張ろうと思うから苦しくなる。

困難に遭遇することを承知して、イエスは「あなたがたは、この世ではなやみがある。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝っている」と語られた。有難い言葉ですね。悩みはいつも追いかけくる。しかし、イエスは悩みを打破し、逃げ道を用意してくださる。苦難や艱難は、他者の優しさや自分の偏見に気付く千載一隅の機会になるかも知れない。心身ともに逞しくさせる神からのプレゼントかも知れません。「勇気を出しなさい」と勧めるイエスの言葉に賭けてみません! 神は「ぶれない!」ですから。